代表部の活動 : 竹田令 一等書記官

令和3年9月6日

「日本と東南アジア、そして世界が笑顔でいられるように」


一等書記官 竹田令
(2018年8月~ 警察庁より出向)

 

1 はじめに

 「日本の警察官は世界で一番楽な仕事だろう。だって日本は犯罪がないんだから。」

 これは世界の法執行関係者から日本の警察関係者が良く言われる冗談です。実際には日本でも犯罪は沢山発生しており、凶悪な事件や解決困難な事件も数多く起きており、日本の警察官は決して楽な仕事ではないですが、世界から見るとそれぐらい日本は治安が良いイメージがあるということと受け止めています。

 今でこそ治安の良さが日本のアピールポイントの一つとなっていますが、少し前の日本は決して治安が安定しているとは言えない状態であったことは、日本人の我々でも忘れがちです。

 1960年代~80年代にかけて極左暴力集団が日本国内で数々の爆弾テロ等事件を引き起こした他、日本赤軍がアジア、中東、ヨーロッパ各地で一般市民を巻き込む無差別テロ事件等を敢行し、国内治安が必ずしも安定していないどころか、日本人がテロによる悲しみを世界に拡散してしまっていた時代がありました。

 ASEAN地域を見てみますと、急速に成長する経済及び目まぐるしく変わる各国国民の生活水準と価値観、テロ等足元の治安の不安定さという点で、少し前に日本が通ってきたステージにあると見ることもできると思います。

 一足先に国内の治安上の不安定要因を克服してきた日本であるからこそ、同じアジアの仲間であるASEAN諸国に対するテロ等治安分野の支援にも説得力があり、また、ASEAN諸国からも日本の貢献が求められています。
 

2 テロ対策は地域の連帯を強化する

 世界には様々な課題があり、それら課題を巡って各国の立場が対立することがあります。ASEAN諸国の間でも地域のあらゆる課題に関して各国の利害や思惑が入り混じり、一枚岩になることはとても難しいことです。

 しかし、テロ等治安対策に関して言えば「テロは『悪』であり、テロのない社会を実現する」という各国の基本的立場は同じで、対立はありません。テロをはじめとする国境を越える犯罪は一国の努力では対処できないため、共通の敵を前に全員が同じチームの味方となり、同じ方向を向いて議論し、各国が手を取り合えるのです。

 ASEAN諸国の間でも、テロをはじめとする国境を越える犯罪への対処に関し、実務者レベルから政府高官、閣僚、更には首脳レベルに至るまで、頻繁に対話が行われ、テロ等国際的な犯罪と闘う意思、情報共有や国際連携の強化、具体的な取組を前進させていくことを確認し合い、目指すべき方向に揺らぎはありません。
 

3 日本が果たす役割

 ASEAN全体としてはテロと闘う強い意思があっても、そのための資金や資機材、更には人材や各国の組織の能力が不十分なため、取組や対策が進んでいかない現実もあります。

 我が国は、ASEAN諸国との間でテロ等国境を越える様々な犯罪をテーマに扱う閣僚級や政府高官レベルの対話枠組みを構築しており、また、二国間でも各国と協議を実施し、ASEAN各国が抱える課題を理解し、テロ等の犯罪と闘うための地域の連携を強化するためのサポートを続けています。
 

2018年8月 生体認証システムの普及促進に向けた
日ASEANセミナー(ジャカルタ)
   

4 おわりに

 皆様は、テロや犯罪、交通事故の被害者遺族の手記をお読みになられたことはおありでしょうか?

 突然の事件や事故で、愛する家族を失った方々の声は筆舌に尽くしがたい悲しみに満ちており、警察という仕事柄、社会の最も悲しい一面に接することが多い私達でも、被害者遺族のお話を聞いたり読んだりする度に、溢れる涙を押さえることができません。

 このような悲しい思いをする人が世界で一人でも減って欲しい、安心して笑顔で暮らせる社会を作りたい。日本、ASEAN、そして世界の治安関係者は、ただそれだけの思いで仕事をしています。

 今後も日本とASEAN、そして世界が笑顔でいられるよう、各国と手を取り合って、テロや犯罪と立ち向かっていきます。
 

(向かって右端が筆者)