代表部の活動 : 大倉直人 一等書記官

令和2年12月15日

日ASEAN経済協力という財産


一等書記官 大倉直人
(2017年~経済産業省より出向)
(記載内容は個人の見解です。)
ASEAN50周年記念パレードにて
(2017年8月ジャカルタ)

1 日ASEAN政府間の経済関係の始まり

 東南アジア10か国から成るASEAN(東南アジア諸国連合)は、1967年の「バンコク宣言」によって設立されました。2017年に50周年を迎えた後も、ASEANは様々な分野における関係強化に向けて取組を行ってきましたが、その中でもASEAN経済大臣会議は2020年で52回目を数えており、ASEANは設立早期から経済面での関係性を重視していたことがわかります(*1)。日本政府との交流は、ASEAN設立から6年後の1973年から始まっていますが、これは、日本製の合成ゴムが東南アジアの天然ゴム産業の脅威となり、この問題を議論するために日ASEAN合成ゴムフォーラムが設立されたことに端を発しています。日ASEAN友好協力の長い歴史もこのような経済協力関係から発展してきており、経済関係なしに語ることはできません。その後、1979年に第1回日ASEAN経済閣僚会議(日本側は当時の外務大臣、大蔵大臣、農林水産大臣、通商産業大臣、経済企画庁長官が代表)が開催され、1991年以降は、現在のようなASEAN各国の経済大臣と日本の経済産業(通商産業)大臣との会合の形式で定期開催をしています(*2)。2020年8月で第26回目を数える同会議は、現在のASEANの対話国とASEAN各国の経済大臣との会議の中では最も多く開催されており、日ASEAN間の強固かつ長期的な経済協力関係が反映されていると言えます。日ASEANの経済関係は、貿易・投資・人の往来などによる商業ベースでの結び付きによる繋がりを政府が後押しをすることで強化されていますが、このような長い歴史を持つ緊密な繋がりは日本独自のものであり、日ASEANの良好な外交関係にも大きな影響を与えていると考えられます。
 

2 2020年のコロナ禍での日ASEAN経済大臣会議

 通常ASEAN内の経済大臣会議は、春に行われるリトリート会合(より率直な議論が想定されている会合)から開始され、夏頃に対話国も含めた本会合を行うのですが、2020年は異例でした。まず3月に開催された本年最初のASEAN経済大臣会議では、新型コロナウイルス感染症がASEAN内でも広がりつつある頃と開催時期が重なったため、予定どおり対面での会議が開催されたものの、経済大臣会議の枠組みとしては異例の新型コロナウイルス感染症対応に絞った共同声明のみの発出となりました(様々な分野を幅広く含む共同声明が出されることが通例)。日本との関係でも、通常であれば年に1回夏頃に日ASEAN経済大臣会議を開催し、その時々のニーズに沿った経済協力が提案・議論されているのですが、本年は目下の経済課題への対応ということで、新型コロナウイルス感染症対応に関するものを中心に複数回会議が開催されました。
 その中でも、4月14日にASEAN+日中韓の首脳間で「新型コロナウイルス感染症に関する特別首脳テレビ会議」が行われた後、そこでの議論を日ASEAN経済関係の文脈でもより深化させるべく、他の対話国に先駆けて日ASEANの経済大臣間で議論を行い、4月22日に「経済強靭性に関する日ASEAN共同イニシアティブ」を発出したことは、大きなインパクトを与えました。この中では、足下の経済への悪影響緩和に取り組みながらポスト・コロナを見据えた経済強靱化を推進することについて、日ASEANが連携し取り組む基本方針が明記されています。さらに、これを単なる方針の確認に留めるのではなく、具体的な取組につなげるべく、7月29日には「日ASEAN経済強靭化アクションプラン」が公表されました。双方がアイディアを持ち寄った結果、同アクションプランには50を超える具体的なプロジェクトが盛り込まれています。新型コロナウイルス感染症のパンデミックからわずか4ヶ月程度で、このような多岐にわたるプロジェクトについて言及できたことは、これまでの日ASEAN経済協力が積極的かつ多面的に行われてきた結果に他なりません。新型コロナウイルス感染症による経済危機や近年の厳しい国際情勢の経済への影響など、ASEANを中心とした経済環境はめまぐるしく変化していますが、長年の積み上げられてきた経済協力関係は広く深く継続されており、日ASEAN間には特別な関係が築かれていると考えることができます。
 

3 今後の日ASEAN経済協力

 2020年の日ASEAN経済協力については、コロナ禍での特別対応が続いたものの、この間に行われた広範な議論を基に新たな取組が行われています。上記のアクションプランに盛り込まれたプロジェクトを効果的な実施に落とし込みつつも、今後の協力プロジェクトのアイディアを醸成するサイクルを生み出すべく、産業界や学界等からアイディアを得ながら、多面的な議論を深めていくためのプラットフォームとして、8月26日に日ASEANの経済閣僚の合意で「イノベーティブ&サステナブル成長対話(DISG)」が立ち上がりました。シリーズ形式のウェビナーとして行われている本対話は、各回にテーマが設定され、産官学の有識者を招いて現在の日ASEANの最先端の取組や今後の期待など様々な議論が活発に行われています。
 まるで日ASEAN関係の発端であるゴムが延伸するかのように、広範な広がりを見せつつ継続している日ASEANの経済協力が今後どのように変化し進められていくのか、日本との関係のみならず、ASEANへの経済協力全体の今後を牽引する取組として、是非この対話にご注目をいただければと思います。
 

脚注

 (*1) ASEANの外相会議は1967年のASEAN設立年に第1回が行われ、2020年には53回目の会合を行っています。
 (*2)日ASEAN外相会議は1978年に第1回が開催され(ASEAN域外国との初めての外相会議)、年に1回の定期開催となっています。
 

関連リンク

 外務省:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関するASEAN+3(日中韓)特別首脳テレビ会議
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/page1_000856.html
 経済産業省:経済強靱性に関する日ASEAN共同イニシアティブ
 https://www.meti.go.jp/press/2020/04/20200422005/20200422005.html
 経済産業省:日ASEAN経済強靭化アクションプラン
 https://www.meti.go.jp/press/2020/07/20200729005/20200729005.html
 経済産業省:イノベーティブ&サステナブル成長対話(DISG)
 https://www.meti.go.jp/press/2020/08/20200828013/20200828013-4.pdf
 日ASEAN経済産業協力委員会(AMEICC):DISGホームページ(英語のみ)
 https://www.ameicc.org/disg/