代表部員の活動:沼上 和秀ニ等書記官

令和5年10月4日

ASEAN競争政策・法と日本と私 

二等書記官 沼上 和秀
(2021年~ 公正取引委員会より出向)


※以下の内容は、ASEAN日本政府代表部の立場や意見を代表するものではなく、あくまで私自身の個人的見解です。  

(バリ島ウルワツ寺院の前で)

1 はじめに

 私は2021年6月に、公正取引委員会から出向し、ASEAN日本政府代表部(在インドネシア大使館併任)において競争を担当しています。今回、ASEANにおける競争政策・法に関する取組や、それに対する日本の関わりについて、さらには私の普段の業務について簡単に紹介いたします。

 まず、競争政策とは何でしょうか。各国・組織によって様々な定義があるかと思いますが、ASEANにおいては、2010年にASEAN事務局から発行された「競争政策におけるASEANガイドライン」において「(1)競争制限的な取引慣行を排除し、市場への参入・退出を促すといった競争を促進する政策と、(2)反競争的行為を防止することを目的としたいわゆる競争法」、の2つの要素から構成されるとされています。このため、ASEANにおいては、(1)と(2)をあわせた意味で「競争政策・法」というワードがよく使われており、また、競争政策・法を広く「競争政策」と言ったりもします。

 平たく言いますと、競争政策・法とは、市場への新規参入などを促すような制度変更による競争政策と、カルテル・談合などの反競争的行為を防止による競争法執行により、事業者にとって公平な競争環境を作り出し、経済効率性、経済成長及び消費者利益の増大を追求することを目的としています

2 ASEANにおける競争政策・法の経緯と課題

 1で触れた競争政策・法ですが、ASEANにおける歴史は長いものではありません。加盟国の中で最初に競争法を導入したのは1999年のインドネシアです(日本は1947年。)。これは1997年のアジア通貨危機がきっかけでしたが、その後各国での導入が進み、2021年のカンボジアにおける競争法の導入により、現在は全ての加盟国で競争法が導入されています。

 しかし、競争法の導入・競争当局の設置をしたらそれで終わりというものではなく、競争政策・法をいかに普及・推進・執行していくかが次なる重要なステップとなりますが、これが結構大変です。一般に競争政策・法というのは、事業者側にとっては、技術を磨き、コストを削らなければいけないので歓迎されない傾向にあります。また、独占的な国有企業、保護主義的な政策など競争政策以外の国内政策と相反することもあります。さらに、法執行にあたっては、証拠収集・分析における経験の蓄積なども必要になってきます。

 このような課題に対して、ASEANにおいては、具体的な行動計画である「ASEAN競争行動計画(ACAP)」という工程表が定められています。ここでは、(1)全加盟国における効果的な競争法制の確立、(2)加盟国における効果的な競争政策実行のための競争関連当局の能力強化、(3)競争政策に関する地域協力協定の策定、(4)競争政策への認知の促進、及び(5)ASEANにおける競争政策の調和の推進という5の目標が掲げられ、この目標の達成に向けた様々な活動が進められています。

3 日本の貢献

 上記ACAPが最初に策定されたのは2016年であるところ、日本は策定当初から日ASEAN統合基金(JAIF)等を活用し、日本の公正取引委員会や専門家とともに、継続的に協力を行ってきています。具体的には、「ASEAN地域における競争法執行強化のためのASEAN競争当局に対する技術支援」というプロジェクトの下で、ASEAN競争当局職員の訪日研修、国境を跨ぐ事案の共同調査に関する手続きの研究、ASEAN競争当局間の相互研修など様々な活動に協力しています。最近の例を紹介しますと、マレーシアの競争当局に対するピアレビュー活動が、日本のサポートで行われています(https://www.asean-competition.org/read-news-asean-completes-its-first-voluntary-peer-review-exercise)。

4 日頃の業務

 日本は、ACAPの進捗にあわせ、2016年から上記プロジェクトのフェーズ1,2018年からフェーズ2、2023年からフェーズ3として協力を行ってきておりますが、私の業務の一つがこれらのサポートです。具体的には、現在行われているプロジェクトに関しての進捗、今後のプロジェクト内容、公正取引員会の関与の在り方等について、ASEAN内にある事務局の担当者などと意見交換を行っています。意見交換では、業務に関することはもちろんですが、インドネシアや各国の観光地やレストランなどについて「意見交換」をしています。

 競争政策・法に関するもの以外にASEAN代表部の職員として関わることがあるのは、各種会合におけるサポートです。特に今年はインドネシアがASEAN議長国でありましたので、インドネシアで開催されたASEAN首脳会議及び各種の関連会合に参加する、日本の総理大臣や各大臣のサポートを行っておりました。残念ながら現状ASEANのセクトラルにおいて行われる競争関連の会合はないのですが、いつの日か競争政策・法がASEANの大きなテーマの一つとなることを期待しております。

5 おわりに

 近年ASEANはその成長性の高さから、様々な国・地域との関係を強めています。競争政策・法の技術支援についても、日本だけでなく、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランド、英国、さらに、OECDやUNCTADといった国際機関など多くのパートナーを有しています。この中から日本が選ばれるためには、長年の協力関係ということにあぐらをかかず、相手のニーズをよく確認し、これに合った協力を行うことが不可欠です。このための積極的な「意見交換」こそが重要であり、私の任務の中心であると感じています。