代表部の活動 : 稲田善秋 一等書記官

令和4年10月27日

食料・農業分野における日ASEAN協力
~和食のファンを増やして、農産物輸出国家を目指せ~


一等書記官 稲田善秋
(2020年~農林水産省より出向)

※以下の内容は、ASEAN日本政府代表部の立場や意見を代表するものではなく、あくまで私自身の個人的見解です。2022年3月末時点の状況を基に記載しています。
 

動画撮影ロケ中の筆者(左)と森田公邸料理人(右)

1 はじめに

 日本の農産物や食品の輸出が増えていることをご存じですか?2021年の一年間には史上初めて輸出額が1兆円を突破し1兆2385億円となりました。ここ10年で2倍以上の伸びです。昨今の海外での和食ブームを追い風に、農家や輸出に関わる民間企業、行政が一体となって取り組んだ結果です。さらに、日本政府は2025年に2兆円、2030年に5兆円の目標を立てています。私が担当するASEAN10か国には、農産物等の輸出先の国・地域別トップ10に4か国(上から順に、ベトナム、タイ、シンガポール、フィリピン)も入っており、輸出先として大変重要な地域です。

 現在、各国の大使館・代表部やJETROには、私のような農林水産省から出向した職員が100名以上在籍しており、その多くは農産物等の輸出促進を担当しており、他の機関と連携して、プロモーションや輸出の障害となる科学的な根拠に基づかない禁輸措置の撤廃や輸出手続の改善などのため、日々活動しています。
 

2 日ASEAN農業協力

 私は、日本とASEANの農業協力の実施も担当しています。どうして日本がわざわざ、外国の農業の発展に協力するのでしょうか?これには、二つの理由があると思っています。一つ目は国際社会の一員として、世界の飢餓撲滅のための責任を果たすというもの、もう一つは、こういった協力が、ひいては日本の利益につながるというものです。以下に具体的に説明します。

 まず、2015年国連の全加盟国が合意した持続可能な開発目標(SDGs)の第1と2は貧困削減と飢餓撲滅です。この二つを達成するために最も重要なことは、食料生産の増加です。日本も責任ある国際社会の一員として、この目標達成に貢献する責任があります。

 しかし、海外で農業協力をすることがどうして、日本の利益につながるのでしょうか?これには、間接的には、世界人口の増加により将来起きる可能性のある食糧危機の日本への影響を緩和するという説明もできますが、もう少し身近な事例を紹介します。現在、ASEAN各国の農協や農民組織の能力向上の研修を行う事業を実施中です。現地には日本食スーパーや和食料理店、食品会社など多くの日系企業が進出していますが、彼らは、原材料を現地で調達したいと考えている一方、現地で手に入る農産物は、品質や規格が日系企業の求める水準に充たない場合が多々あります。そこで、この事業の研修講師に、日系企業の方にも担当してもらっています。農家からすれば、日系企業が求める品質や規格を理解した上で品質改善に取り組むことで、日系企業という買い手を確保でき収入が安定すること、日系企業としては、域外から高い食材を輸入しなくても現地で安価な食材が調達できるというWin-Winの関係になります。
 

3 和食プロモーション

 和食のプロモーションも担当業務の一つです。2013年に「和食」のユネスコ無形文化遺産への登録も契機となり、海外で和食がブームとなっています。現在はコロナ渦で海外から日本への訪問者は激減しましたが、それまでは、インバウンドブームが起きていて、日本への旅行者は増加傾向でした。その旅行者の最大の目的の一つが、日本の食文化の体験でした。母国で和食を食べたことがある人達が、本物の和食を体験したいと日本にやってくるのです。これまで、ASEAN日本政府代表部では、毎年、和食のプロモーションイベントを実施して来ました。しかし、コロナ渦では、こういった対面のイベントが実施できません。そこで、コロナ渦でも実施可能な、和食プロモーション動画を作成、SNSで発信することにしました。

 一般的に、各国の日本大使館の大使公邸には、公邸料理人と呼ばれる職員が在籍しており、彼らは、情報収集や関係構築のために公邸で開かれる会食の料理を作っています。ASEAN日本政府代表部大使公邸には、和食作りのスペシャリストである料理人がおり、彼の作る料理は、当地で和食のファンを増やすことにもつながっています。そこで、そうした活動を広く知って頂き、和食の魅力を広く理解してもらうための動画を作成しました。https://www.facebook.com/japanmissiontoasean/videos/5880407092025776/
 

4 最後に

 私が職員に採用された20年ほど前は、外国の安い農産物から日本の農業を守るという考え方が大勢を占めており、自分としては、輸出について考えたこともありませんでした。それが、今や、輸出額1兆円の目標を達成し、今後10年で5兆円という野心的ではあるが、実現可能な目標として、官民一体となって邁進している現状には、隔世の感があります。5兆円というと昨年の半導体の輸出額に相当しますので、農産物が日本のハイテク製品と肩を並べる輸出品目になることを目指しているわけです。この夢のある目標の達成のため、私も微力ながら貢献したいと思っております。