代表部の活動 : 堀直貴 二等書記官

令和3年6月9日

日ASEAN協力 -税関協力を一例として-


二等書記官 堀 直貴
(2018年~財務省より出向)

※以下の内容は、ASEAN日本政府代表部の立場や意見を代表するものではなく、あくまで私自身の個人的見解です。
 

1 はじめに

 ASEANは日本にとって政治、経済、社会文化等のあらゆる面で強い繋がりを有しており、歴史的にも地政学的にも重要な位置を占める地域共同体です。貿易に目を向けると、日本とASEAN諸国の貿易総額は、2019年には23.4兆円に上り、日本の貿易総額の約15%を占めており、ASEANにとっても日本は主要な貿易相手国・地域の1つとなっています。また、旺盛な人口増加を背景に消費市場としての魅力が高いことに加え、土地建物や人件費等が相対的に低いこと等を理由に、多数の日系企業がASEAN各国に進出してビジネスを展開しています。その一方、各国における法制度や商習慣の違い等を理由に、現地で事業を行う上で困難に直面することもあることから、ビジネス環境の整備・改善を求める声が、日系企業を含む現地進出企業から聞かれます。JETROが実施した調査によれば、約8割のASEAN進出日系企業が貿易円滑化措置の必要性を訴えていることからも、改善の余地が残されていることは明らかです。

 日ASEAN間での貿易が盛んに行われている一方、その裏では、日本に持ち込まれる不正薬物、銃器、テロ関連物品や知的財産侵害物品等の違法物品等はASEAN諸国から密輸されるケースが多いのが実情です。例えば、直近3年間の覚醒剤の摘発件数のうち、アジア地域から持ち込まれた割合は約4~5割弱と他の地域と比して圧倒的と高い数値となっており、その中でもASEAN各国を仕出し地とするものが多くを占めています。

 以上のように、日本にとってASEANは、貿易円滑化とセキュリティの確保という2つの面から極めて重要な地域ということができると思います。そこで今回は、貿易円滑化と安全・安心の確保の両面に関わる、税関分野におけるASEANの取組と日ASEAN協力について紹介したいと思います。
 

2 税関分野におけるASEANの取組みと日ASEAN協力

 ASEANは2015年に「ASEAN経済共同体(AEC:ASEAN Economic Community)」を設立し、それ以降10年間の指針を定めた「AECブループリント2025」の実現等を通じ、現在一層の地域の統合を目指しています。税関分野においては、AECブループリント2025の柱の一つである、高度に統合された経済の実現に寄与することを目的とし、ASEANは、5年ごとに策定する税関の発展に関する戦略計画に沿って、貿易円滑化、税関の統合、原産地規則やASEANシングルウィンドウ(ASW)を含む様々な分野で取組を推進しています。日本はこうしたASEANの努力を後押しし、更により強固な日ASEAN関係の構築をはかる観点から、税関分野での協力を継続しています。ここでは、日本が拠出している日ASEAN統合基金(JAIF)を通じた支援の一例として、原産地規則に関する能力構築支援プロジェクトを紹介したいと思います。

 日本はASEAN各国やASEAN全体との間で経済連携協定(EPA)を締結しており、その効果の一つとして、両者間の物品貿易に係る関税をより低くすることができるようになりましたが、輸出入する物品がEPAの対象と認められるためには、その物品がEPA締結国・地域からの物品であることにつき証明される必要があります。この規則を定めたのが原産地規則であり、日本は、原産地規則に関する能力構築支援プロジェクトを通じ、ASEAN各国の税関当局が原産地規則を調査し、適切な原産性の認定を行うために必要な知識や技能習得することを目的として、ワークショップ等を通じたASEAN税関当局の能力向上を目指しています。これまで、輸入国の税関当局による原産地規則に関する知識が不十分であること等により、適切な原産地規則の適用を受けられないケースが生じています。このため、このプロジェクトを通じ、ASEANにおける原産地規則に関する能力構築が図られることで、事業者にとってはビジネス環境の改善の恩恵が得られるほか、税関当局にとっては法執行能力の向上に資することが期待できます。

 また、ASEANは、貿易円滑化実現のための最重要課題の一つと位置付けられるASWの設立・運用に向けた取組を進めてきました。長年の努力が実り、ASEANは2019年12月から全ての加盟国間でASWを通じた原産地証明書の電子的交換を開始しました。更に、一部の国の間では税関申告書類の電子的交換についても始まっています。こうした動きに関連し、日本は、新型コロナウイルス感染症のような災厄にあってもビジネスの安定性と継続性を維持できる効率的で強靭なサプライチェーンを構築できるよう、原産地証明書等のデジタル化を含む貿易に係るビジネス環境の整備に取り組むことを政府の方針として掲げており、ASEANとの連携強化に向けた動きについても模索しているところです。
 

3 おわりに

 今回は日ASEAN協力の一例として日ASEAN税関協力を紹介しましたが、これに限らず、日本は様々な分野においてASEANとの多種多様な協力・連携を長年にわたり推進してきました。どのような分野においても、お互いを尊重し学ぶ姿勢を大切にすることができれば、日ASEAN関係はより強固なものとなり、お互いを高めあうことが出来ると思います。本稿を通じて、日ASEAN協力、とりわけ日ASEAN税関協力について少しでも理解が深まることを願っています。

(以上)