代表部の活動 : 早野まい 二等書記官

令和4年4月8日

ある若手外交官のASEAN日記


二等書記官 早野まい

※以下の内容は、ASEAN日本政府代表部の立場や意見を代表するものではなく、あくまで私自身の個人的見解です。
 

(萩生田経済産業大臣とリム・ジョクホイASEAN事務局長の会談にて通訳をする筆者)

1 いざ、灼熱の東南アジアへ

 「ASEAN日本政府代表部での勤務を命ずる。ぜひ、あなたにはアジアとマルチにどっぷり浸かってほしい。」当時の上司からこの言葉を聞いたとき、まさか自分が東南アジアに行くとは思っておらず、とても驚いたことを覚えています。新たな挑戦に胸躍る一方、アジアもマルチ(多国間)外交もこれまで経験したことがなく、そもそも東南アジアを訪れたことすらない私が、果たして上手くやっていけるのだろうか・・・。そんな期待と不安が入り交じりながら、2020年の5月、ジャカルタへとやってきました。しかし今思えば、出発前に懸念していたことなど全くの杞憂に過ぎず、むしろ不安など感じる暇がない程、エキサイティングな日々が私を待っていたのです。

 ASEAN日本政府代表部での勤務を開始して最初に感じたのは、ASEANの「熱気」と「活気」でした。急成長を遂げるアジアの中核とも言えるASEANは、政治・安全保障、経済、社会文化の全ての分野において地域全体で発展していくという強い意欲と希望で溢れています。また、地政学的要衝に位置し、国際社会主要プレーヤーとしての存在感を高めるASEANに熱い視線を送る域外国も多く、東南アジアは、今、最も魅力的な地域の一つと言っても過言ではないでしょう。それは日本にとっても例外ではなく、ASEANは、歴史的なパートナーとして、そして我が国の推進する「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の要として、日本外交の重要な一端を担っています。特に2020年の日ASEAN首脳会議において、日本とASEANは、ASEANのインド太平洋地域への関与の指針となる「ASEANインド太平洋アウトルック(AOIP)」と日本のFOIPが、関連する本質的な原則を共有することを確認しました。現在は、同会議で採択された「AOIP協力に関する日ASEAN首脳声明」に基づき、ASEANと各種協力を進めています。来年、日本とASEANは、日ASEAN友好協力50周年という記念すべき年を迎えますが、より強固な日ASEAN関係を築いていくことこそ、日本とASEANはもちろん、インド太平洋地域全体の平和と繁栄へと繋がっていくのです。

 

2 ASEANにおけるマルチ外交

 ASEANには、ASEAN+1か国、ASEAN+日中韓、東アジア首脳会議(ASEAN+主要8か国)といった多くの地域枠組みが存在しますが、ASEANとのマルチ外交を促進するにあたり、基礎となる重要な概念が2つあります。それは、ASEAN中心性と一体性です。まず、ASEAN中心性とは、域外国を含む地域の枠組みにおいてASEANが議論を主導するという考え方です。ASEANとのマルチ外交の場面では、よく、「運転席に座るのはASEAN」という表現をしますが、長い間、大国間の対立に翻弄されてきたASEANにとって、ASEAN中心性は、地域の課題について議論する際に、主体性を維持するための最も重要な概念と位置づけられています。そしてもう一つ、ASEAN一体性とは、域外国との関係について、ASEAN10か国が結束して対応するという考え方です。ASEANといっても、各国それぞれ政治体制や発展のレベルに大きな差があり、一括りにすることはできませんが、地域統合及び共同体構築を目指すASEANにとって、ASEAN一体性は欠かすことの出来ない理念であり、対外関係を構築する上での基本方針となっています。このように、ASEAN中心性と一体性はASEAN外交の根幹であり、ASEANにおける全ての取組はその上に成り立っています。

 日本は、ASEANとの関係を樹立してから約50年間、一貫してASEAN中心性と一体性を支持してきました。ASEANの外交官と話していると、「日本はASEANのことをよくわかってくれている、日本は信頼できるパートナーである」と言われることが多々ありますが、これはまさに、ASEANを理解し、寄り添い、共に歩んできた先人たちが、長い年月をかけて築き上げてきた信頼関係の証左だと感じます。この言葉を聞くたびに、先人たちから受け継いだバトンをしっかりと次世代へ繋いでいかなければと、改めて身が引き締まる思いです。同時に、ASEANにおける日本の役割は、ASEANとの関係強化だけではなく、ASEANと域外国の橋渡しを担うこととも感じています。地域の平和と安定のために、日本がイニシアティブを発揮して、ASEANや域外国との連携を強化していく。それこそがASEANというマルチ外交における日本の強みではないかと思います。
 

3 終わりに

 ASEANは若い力の躍動する地域と言われますが、それは外交の世界でも同じであり、多くの優秀な若手外交官と出会う機会に恵まれました。また、ASEANには女性の外交官も多く、女性の大使も少なくありません。ASEAN日本政府代表部での勤務を通じて得た出会いが、私を一人の外交官として、そして一人の人間として大きく成長させてくれました。まさに、アジアとマルチにどっぷり浸かった2年間。またどこかで、ASEANとの関わりを持つことができたらと願いながら、筆を置くこととします。