代表部員の活動 : 二等書記官 安藤彩子

令和6年9月4日

ASEANと日本 共に歩むパートナー


二等書記官 安藤 彩子
(2020年~2024年)

※以下の内容は、ASEAN日本政府代表部の立場や意見を代表するものではなく、あくまで私自身の個人的見解です。
 

ジャカルタの路地で子供達の写真を撮る筆者

1 はじめに

 私がASEAN日本政府代表部での勤務を拝命した2020年11月、世の中はコロナ禍まっただ中でした。人っ子1人いない真っ暗な成田空港から、ガラガラの飛行機に乗って辿り着いたジャカルタ、到着したホテルで聞こえてきたアザーン(イスラム教のお祈りを呼びかける放送)に、イスラーム圏に戻ってきたのだという懐かしさと安堵が込み上げてきたのを、今でも鮮明に覚えています。学生時代を中東イスラーム圏で過ごした自分にとって、ジャカルタは初めて訪れる街でしたが、どこか懐かしい雰囲気のする場所でした。そして、アザーンを聞きながら次第に白んでいく空を見上げて、これからどんな3年間が待っているのだろうと、期待に胸を膨らませました。

 

2 ASEAN日本政府代表部での業務

 私の担当業務は会計と儀典。一般に皆さんがイメージする「国際会議で各国の外交官と外交交渉を行う」という外交官とは全く異なり、国際会議や外交交渉の場に向かう職員の出張の手配を行ったり、査証のアレンジを行うなど、普段は事務所の中で書類と睨めっこをする仕事です。
 そんな私の業務の中で、特に印象に残っているのは、日ASEAN友好協力50周年記念の年である2023年、年初に行ったキックオフ・シンポジウム及びレセプションのアレンジです。私は会計担当として、会場となるホテルの選定とホテル側との調整を任されておりました。日本とASEANにとって節目となる年の最初の大きなイベントであり、日本のプレゼンスを示す好機ともなる重要なイベントでした。当時着任後間もない紀谷ASEAN日本政府代表部大使とも、いかに印象深い会を開催できるかが大切であるとの考えのもと、いろいろなアイディアを検討し、その中で「レセプション会場でASEAN各国の料理を提供してはどうか」とのアイデアが出されました。料理を担当するホテルのシェフにそのアイディアを伝えお願いしたものの、いくらASEANの一員であるインドネシア出身のシェフといえど、ASEAN全域の料理は食べたことどころか見たこともなく、「タイやマレーシアなどの比較的良く知られた国の料理は出来るけれど、ブルネイやラオスの料理などは難しい。」との返事が。。。しかし、ASEANの一部の国の料理だけ出すことは、日本が一部の国だけ大切にしているとの誤った印象を与えてしまう・・・そこで、シェフにもう一度頭を下げ、各国大使館などに問い合わせて、なんとか一国一品を実現して欲しいとお願いしたところ、シェフもこちらの熱意を理解してくれ、最終的にはお願いした全ての国の料理がそれぞれの国旗と共にビュッフェ台に並ぶこととなりました。ホテル側とアイディアを出し合い、一つ一つの料理には各国の国旗をあしらったプレートを設置し、どんな料理であるかの簡単な説明も付けることにしました。また、デザートには日本式のチーズケーキを提供し、日ASEAN50周年記念ロゴをあしらうことにしました。
 満を持して迎えたレセプション当日、日本主催のレセプションで自国の料理が振る舞われていることを知ったASEAN各国のゲストから笑みがこぼれる様子を目の当たりにしたときは、頑張ってアレンジして良かった!と心から嬉しく思ったと同時に、インドネシア人のシェフやホテルスタッフと二人三脚でASEAN各国の人々を「おもてなし」出来たという達成感はひとしおでした。

 

3 人々の優しさと共に

 ジャカルタに来るまでインドネシアのことを殆ど何も知らなかった私ですが、この国で3年9ヶ月を過ごし、インドネシアのことを第2の故郷と感じるほどに好きになりました。その大きな理由が、インドネシアの人々の優しさです。前述のレセプションの際も、インドネシア人のシェフやスタッフが根気よく自分の話を聞き、協力してくれたことが成功の大きな鍵となったように、インドネシアで勤務した4年弱、公私に渡りインドネシア人の優しさに大いに助けられました。
 事務仕事が中心の私は、普段からインドネシア人の方と接する機会が多いのですが、時には文化や慣習、規則の違いなどでインドネシア人にとっては無理難題ともいえるお願いをすることもあり、そんな中でも、頭ごなしにこちらの言う事を否定せず、まず私の話を聞いて出来る限り協力しようと寄り添い、一所懸命知恵を絞り出してくれたことが印象的でした。
 また、休みの日はジャカルタ市内で街歩きを楽しみましたが、路地裏で出会うインドネシアの人々は、いつも見ず知らずの外国人である私に大変親切にしてくれ、時には道案内をしてくれたり、お茶を飲んでいきなさいと誘ってくれたり、インドネシアについて色々なことを話してくれたりしました。うっかり置き忘れてしまったスマホを通りがかりの人が拾って、落とし主である自分を一所懸命探して届けようとしてくれたなどということもあり、この約4年間、公私にわたりインドネシアの人々の優しさと親切心には感動させられっぱなしでした。

 

4 アジアの共通点

 私は仕事ではインドネシア以外のASEAN国を訪れる機会は殆どありませんでしたが、趣味のダイビングを通してASEAN各国の方と知り合う機会に恵まれ、その際に強く感じたのが、同じ「アジア人」として共感し合える部分が非常に多いと言うことです。例えばインドネシアで好まれる麺料理「ミーゴレン」と日本の「焼きそば」、味は全く違いますが、どちらも同じく「麺にソースを絡めて肉や野菜と共に炒める料理」です。このように日本とASEANの国は、料理だけでなく、文化、考え方など様々な面で「細部は異なるけれど根本的な部分で共通点を多く見出すことが出来る。」存在だと感じます。多くのASEAN各国の人たちが、ありがたいことに日本を大変好いてくれ、日本のことを良く知ってくれていますが、これも、欧米などの国と比べて共通点の多いアジアの国である日本に親近感を持ってくれているからだと思います。この共通点に起因する親近感は、共に手を取り進んでいくパートナーとして、大変心強いことではないかと思います。
 しかしながら、ASEANの国の人たちが日本について良く知っている反面、私も含め日本人はまだまだASEANの国について知らない部分が多いように思います。途上国と認識される東南アジアですが、実際にはオンライン決済やデジタル化など、日本よりも遥かに進んでいる分野も沢山あります。これからは、ASEANの国が日本について学ぶだけではなく、わたしたちもASEANの国から多くのことを学び、この「アジアの共通点」を活かしながら、日本とASEAN各国が信頼出来るパートナーとして、お互い助け合いながら共に歩み続けることが、地域全体の発展にとって大切だと感じます。ASEANと日本の関係が、これから益々深まり発展していくことを、心より願ってやみません。