保健分野における日本の対ASEAN協力

2016年1月

1. 総論

ASEAN諸国においては、感染症対策、母子保健、栄養改善、保健システムの強化等といった従来からの課題に加え、急速な高齢化の進展や生活習慣病等の非感染症疾患罹患者の増加など新たな課題への対処の必要性が高まっています。また、ASEAN6(ブルネイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ)とCLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)との深刻な医療格差も従来から指摘されています。

2015年11月のASEAN首脳会議で採択された共同宣言「ASEAN 2025: Forging Ahead Together(共に前進する)」において、「保健医療の強化」がASEANの行動目標の一つとして明記されました。ASEANはこの目標を、安価で質の高い保健医療サービスを提供できる医療産業の育成を通じて実現するとしています。また、ASEAN2025では、具体的な行動項目として、民間医療市場の開放や官民連携による投資継続、保健医療製品・サービスにおけるさらなる基準の調和、医療観光やe-ヘルスケアサービスなど高成長が見込まれる分野の促進、保健システムの強化、医療人材の流動性向上、伝統的医薬品や健康補助食品に関するASEAN規制枠組みの更なる開発強化、保健医療製品の貿易促進のための新製品開発継続等が掲げられています。


2. 保健分野における日本のこれまでの協力例

(1)日ASEAN健康イニシアチブ

  • ASEAN諸国においては、経済発展に伴う食生活の変化等から生活習慣病の罹患が問題になっています。また、公立病院と私立病院、都市と地方の間における医療レベルの格差も拡大しています。

  • 2014年11月の第17回日ASEAN首脳会議において、安倍総理より、「日ASEAN健康イニシアチブ」として、健康増進、病気の予防及び医療水準の向上に向け、5年間で8,000人の人材育成を目指したい旨を表明しました。


  • 上記イニシアチブに基づいた協力プロジェクトの一つとして、日・ASEAN統合基金(JAIF)を活用し、日本の健康政策や、ASEAN諸国で進められている生活習慣病対策の協力プロジェクト等の知見・経験を共有する「日・ASEAN健康イニシアチブフォーラム(生活習慣病)」を2015年8月にインドネシア・ジャカルタで開催しました。本フォーラムでは健康診断やがん検診を中心とした日本の生活習慣病に関する我が国の施策を共有するとともに、ASEAN諸国との協力プロジェクト例を紹介しました。

(2)ASEAN日本アクティブ・エイジング地域会合

  • ASEAN諸国においては、日本が過去に経験したのと同等かそれ以上の速さで高齢社会を迎えると予測されています。例えば、高齢化社会(全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が7%)から高齢社会(同14%)への移行は、日本では24年要したのに比して、ベトナムでは15年、インドネシア17年、ラオス19年、ミャンマー20年と、日本より速いペースで進展するとみられています。

  • ASEAN地域の高齢化対策への協力プロジェクトの一つとして、2014年6月、第1回ASEAN日本アクティブ・エイジング地域会合をインドネシア・ジャカルタで開催しました。さらに、2015年8月には日・ASEAN統合基金(JAIF)を活用して、第2回ASEAN日本アクティブ・エイジング地域会合をタイ・サムイ島で開催しました。

  • 第2回会合では、①アクティブ・エイジングに向けた高齢者の疾病予防と健康増進、②高齢者介護:人的資源の開発、③高齢者特有のケア:認知症の各議題について活発に議論が行われました。会合の成果としてとりまとめられた提言では、アクティブ・エイジングの達成に向けた目標や指標の設定がもたらす利益が認識されました。


3. 今後の協力の方向性

2015年9月、日本は保健分野の課題別政策として「平和と健康のための基本方針」を策定し、政策目標として、①公衆衛生危機・災害などにも強い社会の実現、②生涯を通じた基本的保健サービスの切れ目のない利用の確立(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジの達成)及び③日本の知見・技術・医薬品・医療機器・サービスの活用を挙げています。

本基本方針は全世界を対象としたものですが、その中で東南アジアの地域別重点方針として、高齢化や保健ニーズの多様化に留意しつつ、栄養改善、感染症や非感染性疾患への対応を強化し、メコン諸国を始めとする各国におけるUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の達成に向けた保健協力を推進するとしています。

日本は本基本方針とASEAN2025で示された具体的な行動項目等を踏まえつつ、各国政府や関係機関と連携しながら、引き続きASEANの保健課題の取組に協力していきます。