平和構築分野における日本の対ASEAN協力
2016年2月
1. 総論
ASEANは,過去10年間でGDPが約3倍に拡大するなど,世界の「開かれた成長センター」として注目されています。こうした目覚ましい経済成長を下支えするのが,地域の平和と安定です。これまで東南アジア諸国は,東ティモール,ミンダナオ(フィリピン),アチェ(インドネシア),ミャンマーなどの地域紛争に各国個別に取り組んできましたが,昨今のASEAN協力の進展に伴い,平和構築における教訓,成功事例等をASEAN地域全体で共有する動きが加速しています。
2011年5月のASEAN首脳会議では,平和構築及び和解促進に関する調査・研究を行う「ASEAN平和・和解機構(AIPR)」の発足が合意されました。2015年11月のASEAN首脳会議で採択された共同宣言「ASEAN2025: Forging Ahead Together(共に前進する)」においても,「平和,紛争管理及び紛争解決に関する活動の研究強化」がASEANの行動目標の一つとして明記され,その具体的な施策の一つとしてAIPRの活用が謳われています。
2. 平和構築分野における日本の協力
(1)個別事例
日本は戦後,平和国家として,アジア各地で平和構築を支援してきました。現在,東南アジア地域では,以下の課題に取り組んでいます。
(ア)ミンダナオ和平
フィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MLIF)との和平交渉については,2012年10月,最終和平への道筋を示した「枠組み合意」が署名され,2014年3月,包括和平合意が署名されました。現在,2016年のバンサモロ自治政府の設立のために必要な法整備が進められています。
日本政府は,①国際監視団への開発専門家派遣,②元紛争地域への経済協力プロジェクト(J-BIRD)の集中的実施,③和平交渉にオブザーバー参加をして助言を行う国際コンタクト・グループ(ICG)への参加等を通じ,ミンダナオ和平プロセスの進展に貢献してきました。2011年8月には,日本政府の仲介の下,アキノ大統領及びムラドMILF議長が秘密裏に訪日し,ミンダナオ和平問題の解決に向けた初めてのトップ会談が行われました。
現在,日本政府は,バンサモロ自治政府の発足を見据え,同地域の経済的自立を支援しています。2015年11月には,同地域の民間企業や農業協同組合に対して設備投資や運転資金等を提供する,約150億円規模の円借款計画への支援を決定しました。
 フィリピン・ミンダナオ和平関係者による岸田外務大臣表敬(2015年6月)
(イ)ミャンマーにおける少数民族との和平
(ウ)カンボジア和平
日本は,1980年代後半からカンボジア和平プロセスに積極的に参画し,89年のカンボジア問題パリ会議第3委員会の共同議長を務め,90年には東京で和平会議を開催し,92年から93年にかけて国連PKOに自衛隊,文民警察,選挙監視要員等のべ1,300人の要員を派遣し,初めての本格的なPKOへの貢献を行いました。
1993年の新生「カンボジア王国」の成立後にも,同国の復旧・復興を全面的に支援してきています。現在,日本政府は,積極的平和主義の取組の一環として,選挙改革支援,クメール・ルージュ裁判への支援,及びアンコール遺跡の保存修復支援を実施しています。
(2)セミナー・ワークショップの開催
(ア)アジアの平和構築と国民和解,民主化に関するハイレベル・セミナー
2015年6月,「積極的平和主義」の具体的取組として,「アジアの平和構築と国民和解,民主化に関するハイレベル・セミナー」を東京で開催し,スリン前ASEAN事務総長を始め,ASEAN各国から多数のハイレベルが出席しました。
会議を通じて,参加者は,①紛争終結後のアジアの多くの国々が,国内外において困難があるものの,過去数十年にわたり,平和,経済開発,国民和解及び民主化において相乗効果を伴った発展を遂げたことを強調し評価するとともに,②民主化を遂げたばかりの国の全てではないにせよ多くの国において国際社会と市民社会の支援を得て,多数の関係者が政治的な議論に参加する多元的な政治制度の維持に成功したことを指摘しました。同セミナーの成果として,有識者の主な見解をまとめた最終文書が採択されました。
 アジアの平和構築と国民和解,民主化に関するハイレベル・セミナーでの岸田外務大臣の基調演説
(イ)ASEAN平和・和解機構(AIPR)との協力
日本は,AIPRが主催又は深く関与したワークショップやシンポジウムに対して,開催費用の負担や,日本人スピーカーの参加を通じた具体的な貢献をしてきました。
2014年4月,AIPRにより「平和と和解のプロセスとイニシアティブに関するAIPRシンポジウム」がマニラで開催されました。日本政府は,日ASEAN連帯基金を通じた開催費用の一部支弁を行いました(フィリピン・プロジェクト基金との共同拠出)。また,有識者の一人として,長谷川祐弘元国連東ティモール担当事務総長特別代表が参加しました。
2014年6月,「多文化及び多元社会における紛争予備及び平和と安定の維持」をテーマとして,第1回ASEAN国連ワークショップ(政治・安全保障協力に係る地域対話)がクアラルンプールで開催されました。また,2015年2月には,「AIPR支援におけるASEANと国連の協調」をテーマとして第2回ワークショップがネーピードー(ミャンマー)で開催されました。これらのワークショップは,日本政府からの国連への拠出金を活用して開催されたものであり,第2回のワークショップには,岡井朝子在スリランカ日本国大使館公使も参加しました。
2015年3月,AIPRにより「和平プロセスにおける女性の参画強化に関するワークショップ」が開催されました。日本政府は,日ASEAN統合基金(JAIF)2.0を通じた開催費用の一部支弁を行いました(ノルウェー政府との共同拠出)。
 平和構築プロセスにおける女性の参画強化に係るASEANワークショップ (出典:フィリピン外務省ホームページ)
3. 今後の協力の方向性
今日,日本政府は,「国際協調主義に基づく積極的平和主義」を安全保障の基本政策に掲げており,「積極的平和主義」の核となる実践が,日本がアジア各地で行ってきた平和構築への貢献です。
上述のとおり,平和構築は日ASEAN双方にとって重点分野であり,大いに協力の可能性を秘めています。2013年12月の日ASEAN特別首脳会議で採択された「日ASEAN友好協力に関するビジョン・ステートメント」の実施計画では,日本とASEANによる平和構築における共同の取組の促進及びベスト・プラクティスの共有が謳われています。今後とも,AIPRとの一層の協力を始めとして,平和構築分野においてASEAN全体に裨益する取組を強化していきます。
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