ASEAN 2025を実現するための日本の協力 (海洋安全保障)
2016年1月
1. 総論
法の支配に基づく、開かれ、安定した海洋は、国際社会全体の財産です。
2015年11月のASEAN首脳会議で採択された共同宣言「ASEAN 2025: Forging Ahead Together(共に前進する)」においても、「海洋安全保障の強化」が行動目標の一つとして明記されました。ASEANはこの目標を、(1)国際的に受け入れられている海洋条約・原則の導入(法の支配の強化)、(2)ASEAN主導のメカニズムの強化を通じて、実現するとしています。また、ASEAN2025では、具体的な行動項目として、平和、繁栄及び協力の海としての南シナ海の維持(中国ASEAN間の行動規範(COC)交渉の促進、紛争を複雑化・エスカレートさせる行為の自制、予防外交措置(事故防止手順の策定等)の促進)、拡大ASEAN海洋フォーラム(EAMF)等における対話・協力の促進等が掲げられました。
日本は、ASEANが掲げる基本原則の一つであるASEANの中心性を尊重しつつ、こうしたASEAN自身の取組を引き続き力強く支援していく考えです。
2. 法の支配の強化
2014年5月、安倍総理大臣はシャングリラ・ダイアローグで基調演説を行い、「海における法の支配の三原則(①国家は法に基づいて主張をなすべし、②主張を通すために力や威圧を用いない、③紛争解決には平和的収拾を徹底すべし)」を提唱しました。
 (写真提供:内閣広報室)
日本は、国際社会に対し、様々な機会を捉え、同原則の徹底を呼びかけています。2015年11月にクアラルンプールで開催された第10回東アジア首脳会議(EAS)でも、安倍総理大臣は同原則を改めて強調するとともに、南シナ海をめぐる問題に関し、沿岸国は、国際法に従い、境界未画定海域において、軍事・民生利用を問わず、海洋環境に恒常的な物理的変更を与える一方的行動を自制すべきである旨述べました。また、フィリピンによる仲裁手続の活用について、日本は、海洋をめぐる紛争を国際法に基づき平和的に解決する手段として支持しています。同会議における議論を踏まえ、議長国マレーシアが作成した議長声明には、「南シナ海における軍事化を追求する意図はないとの習近平・中国国家主席の約束を歓迎した、意見の相違や紛争を国際法に則り平和的手段で解決するとのASEAN諸国と中国の約束を強調した」旨が記載されました。今後、EASに参加する各国がこれらの事項を踏まえ行動していくことが求められています。さらに、同会議では「地域の海洋協力に関するEAS声明」が採択され、今後、海洋安全保障を促進すべく、各国の協力が強化される予定です。
3. ASEAN主導のメカニズムの強化
ASEANは、東アジア首脳会議(EAS)、ASEAN地域フォーラム(ARF)、拡大ASEAN海洋フォーラム(EAMF)等の国際会議を主導し、海洋安全保障を含む地域の平和と安定のため、重要な役割を担っています。ASEAN2025においても、これらのメカニズムに基づいて地域の枠組みをさらに発展していくことが明記されました。
日本は、こうしたASEAN主導のメカニズムに積極的に参画し、その強化に貢献しています。海洋安全保障に関する日本の最近の主な取組は以下のとおりです。
(1)ASEAN地域フォーラム(ARF)
2015年3月に「ARF海賊対策セミナー」を東京で開催し、アジアの海賊対策強化のための課題の特定及び解決策等について議論。
2015年12月に「地域信頼醸成と海洋法に関するARFセミナー」を東京で開催し、国内外の著名な国際法学者・専門家を講演者として招き、ARF参加国・地域の政府関係者が境界未画定海域における国際法制度や国際法が信頼醸成に果たす役割について意見交換を実施。
 (黄川田外務大臣政務官と地域信頼醸成と海洋法に関するARFセミナー主要参加者による記念撮影)
(2)拡大ASEAN海洋フォーラム(EAMF)
EAMFは、日本の提案により2012年に設置されたもの。これまで4回開催されており、海洋安全保障の課題等について活発に議論。
4. ASEAN諸国の海洋保安・安全能力構築支援
日本は、国際協調主義に基づく「積極的平和主義」の立場から、ASEAN諸国の海洋保安・安全能力構築をシームレスに支援していく考えです。
安倍総理は、前述のシャングリラ・ダイアローグにおいて、「ODA、自衛隊による能力構築、防衛装備協力など、日本が持ついろいろな支援メニューを組み合わせ、ASEAN諸国が海を守る能力を、シームレスに支援してまいります。」と発言しました。
また、2014年の日ASEAN首脳会議では、安倍総理大臣から、日ASEAN間の共同訓練、人材育成、航行の安全等において引き続き協力し、海上保安・安全能力構築のため、今後3年間で700人規模の人材育成を行う旨表明しました。これまでにASEAN各国に対して行ってきた海上保安人材協力や巡視船の供与等と合わせ、ASEANの能力強化への支援を今後も継続し、ASEAN共同体の強化に繋げていきたいと考えています。
 (ベトナムにおける潜水医学セミナー(2015年3月)(防衛省HP)
さらに、このような考え方を具現化すべく、日本は「海洋安全保障能力構築支援セミナー」を東京で開催しました。2回目となった2015年12月の本セミナーでは、ASEAN諸国から外務省や国防省等の事務レベルの政策責任者が出席し、日本政府関係者と意見交換を行うとともに、国内の関連企業から国産防衛装備品等に関する説明を受けました。日本側からは、平和安全法制、能力構築支援、防衛装備協力等に関する説明を実施しました。これに対しASEAN諸国側から、日本の平和安全法制を含む「積極的平和主義」に基づく具体的な取組や日・ASEAN諸国の協力関係強化に向けた期待が表明されました。本セミナーでの議論を通じ、海洋安全保障分野における日・ASEAN諸国の協力関係が一層強化されることが期待されます。
 (濵地雅一外務大臣政務官と第2回海洋安全保障能力構築支援セミナー主要参加者による記念撮影)
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