ASEAN 2025を実現するための日本の協力(連結性)

2016年5月

1. 総論

ASEAN連結性は、交通・情報通信技術(ICT)・エネルギーなどの物理的連結性、貿易・投資・サービスの自由化・促進などの制度的連結性、教育・文化や観光などの人と人との連結性の3つの要素から成る概念です。道路網の整備(物理的連結性)や貿易・投資における非関税障壁の撤廃(制度的連結性)等によるASEAN連結性の強化は、物流や人の流れの円滑化を促進し、ASEANの競争力や強靱さに資することから、ASEAN共同体構築の深化にとって不可欠です。こうした観点から、ASEANは、ASEAN連結性を強化することを目的に「ASEAN連結性マスタープラン」(MPAC)を2010年10月に策定しました。

2015年11月のASEAN首脳会議で採択された共同宣言「ASEAN 2025: Forging Ahead Together(共に前進する)」において、「連結性の強化」は引き続きASEANの行動目標の一つとして明記されました。ASEANはこの目標を、各分野の政策を戦略的に実施すること等により実現するとしています。また、ASEAN2025では、交通運輸、ICT、電子商取引、エネルギー、食糧・農業・林業、観光、保健医療、鉱物資源、科学技術の分野毎に具体的な行動項目が掲げられています。例えば、交通運輸分野では道路・橋のインフラ整備、単一航空市場・単一海運市場の創設、ASEAN越境輸送円滑化枠組合意(AFAFGIT)等の運用による越境輸送円滑化、ICT分野では経済成長のためのICT利活用、 ブロードバンド普及等のICTを通じた人々の統合とエンパワーメント、スマートシティ・ビッグデータ等の技術革新、電子商取引分野では消費者保護法制の調和化、オンライン上の紛争解決手段に関する法制度の調和化、エネルギー分野ではクリーンコールテクノロジーのイメージ強化、エネルギー効率性の30%向上、食糧・農業・林業分野では農産物貿易円滑化、持続可能な農業、生産性の向上等の項目があります。


2. 連結性における日本の協力例

ASEANによる「ASEAN連結性マスタープラン」の発表(2010年10月)後、我が国はASEANの連結性を強化するため、「東西・南部経済回廊(陸の回廊)」と「海洋ASEAN経済回廊(海の回廊)」の整備、及び「ASEAN全域ソフトインフラ案件」を3つの柱として支援しています。第14回日ASEAN首脳会議(2011年11月)において、連結性強化に資する主要案件リスト「フラッグシップ・プロジェクト」(33件(後に32件に再編))を提示し、さらに日ASEAN特別首脳会議(2013年12月)において、フラッグシップ・プロジェクトに新プロジェクトを追加した新しい連結性支援プロジェクトリスト(約70件)を提示しました。また、当該連結性支援プロジェクトリストを中心に、日本側の協力についてASEAN側と協議するため、定期的に会合(日ASEAN連結性調整委員会)を開催しています。

具体的なプロジェクトの一例としては、「東西・南部メコン経済回廊(陸の回廊)」におけるネアックルン橋(つばさ橋)の建設事業やラオス国道9号線の改修事業があります。

南部経済回廊の一部であるカンボジアの国道一号線のメコン河渡河地点では、ネアックルン橋が建設されるまでフェリーが渡河手段となっており、繁忙期には最大7時間程の待ち時間が発生していました。無償資金協力による同橋の建設により、こうした問題が大幅に解消されました。


ネアックルン橋(国土交通省提供)

また、ラオス国道9号線は、東西経済回廊のラオス国内区間ですが、通行量の増加や車両の過積載の影響を受け路面状況が悪化していました。このため、無償支援協力により、損傷区間の舗装改修や道路の構造強化を行いました。

これらのプロジェクトは、物流・人流の円滑化を通じて、それぞれの国内の農業・商業等の経済活動のみならず、メコン地域全体の発展に寄与しています。

「海洋ASEAN経済回廊(海の回廊)」においては、例えば、インドネシアにおける船舶航行安全システムの運用能力向上があります。本プロジェクトにおいては、国際的な主要航路の一つであるマラッカ・シンガポール海峡及びその周辺の海域に係る船舶通航サービス(VTS)の運用・保守に関するワークショップを開催するなど、VTSの運用能力向上に向けた取組を実施しました。また、現在、ASEAN地域におけるVTS要員の人材育成のためのASEAN地域訓練センターの設立を目指しています。これらのプロジェクトを通じて、世界貿易にとって重要な海上輸送路であるマラッカ・シンガポール海峡の海上安全に貢献しています。



タンジュンプリオク港緊急リハビリ事業(JICA提供)


3. 今後の動き

2015年末のASEAN共同体の構築を受け、改訂版MPAC(ASEAN Connectivity 2025)が2016年に採択される予定となっています。我が国の提唱により設立された東アジア・ASEAN経済研究センター(ERIA)は、アジア総合開発計画(CADP)2.0を策定しました。これは発展段階に応じた適切な質のインフラ提供とインフラ開発の実施に着目しており、改訂版MPACが作成されるにあたっては、こうした内容が取り込まれるよう、ERIAがそのプロセスに関与し、貢献することが期待されています。

我が国としては、「質の高いインフラ投資」等の取組を通じて、引き続きASEAN連結性の向上に貢献してまいります。