ASEAN日本政府代表部

 

食料、農林業分野における日本の対ASEAN協力

2016年4月

1. 総論

食料、農林業は、多くのASEAN諸国において重要かつ戦略的な分野で有り続けてきました。また、ASEANの人口の大部分にとって大きな雇用源であり収入源となっています。ASEANは穀物、とりわけ米の主要な生産と供給を担っているとともに、パームオイルや天然ゴムの世界最大の生産地となっています。また、家畜類の生産量は近年急速に増大してきています。林業分野もまた、世界市場に木材及び木材製品を供給しており、水産物についても世界の主要な輸出地域となっています。

ASEANの急速な経済成長は、食料、農林水産品に対する需要を増大しただけでなく、食品の安全性や品質、混合物への関心にも大きな影響を与え、より良い品質の食料品、より良い衛生、多様な食料製品への需要を高めました。供給面については、食料、農林業の天然資源は各種の内的要因、森林伐採、土壌浸食、流域や河川の減少などによる脅威に晒されており、外的には気候変動による影響を受けています。こうした要因は、ASEANの食料安全保障、食料、工芸作物及び林産品の輸出者としての高い地位を脅かしています。

グローバリゼーションと地域統合は、世界市場へのアクセスを向上させるだけでなく、国内の生産者を海外のより技術的に洗練され競争力を有する相手との競争に晒すことになります。この点から、食料、農林業分野のほとんどを占める中小の生産者は、より高い市場水準を満たし、新しい技術を取り入れ、競争力を高める変化に対応した場合のみ生き残ることができるのです。

このような環境の下、2015年11月のASEAN首脳会議で採択された共同宣言「ASEAN2025:Forging Ahead Together」においては、食料、農林業のビジョンを、「競争力のある包括的かつ強靱で持続可能な食料、農林業であって、単一の市場及び生産拠点に基づく世界経済と統合し、食料安全保障と栄養に貢献し、ASEAN社会の繁栄に資するもの」と定めました。

このビジョンを実現するため、ASEAN諸国は共同して次の5つに分類される協力分野の諸課題に取り組むこととされています。(1)貿易円滑化と経済統合の深化、(2)持続可能な生産のための協力と能力の強化、(3)農業生産性の向上、(4)農業分野の科学技術投資の増大、(5)農業生産者のグローバル化プロセスの確保


2. 食料、農林業分野における日本の協力

我が国は,AMAF+3(ASEAN+3農林大臣会合)の枠組みの下で、食料、農林業分野の生産性の向上や食料生産の増大を通じて食料安全保障を強化するために取り組んできました。我が国は、ASEAN地域の食料安全保障の課題に対応し、引き続き協力プロジェクトを実行していきます。

我が国は、まず、農業生産性の向上を図る目的で、ASEAN各国の農業普及員や行政官などを対象にした人材育成を支援する「ASEAN諸国の農業分野のキャパシティビルディング支援事業」を実施しています。この事業においては、小規模農家が多数を占めている現状を踏まえた各種の研修を実施する外、ASEAN GAP(農業生産工程管理)の普及を目的としたセミナーやASEAN諸国内でのフードバリューチェーンの概念について、共通理解を共有するためのセミナーを開催するなど、ASEANにおける農業分野の人材育成に貢献しています。

我が国の協力プロジェクトのうち最も重要なものの1つがAPTERR(ASEAN+3緊急米備蓄)と呼ばれるものです。これは、人道的見地から行う専門的かつビジネスセンスに則った地域協力です。この取組は一時的かつ大規模な災害による危機に対して食料安全保障を確保するために立ち上げられたものです。APTERRは相互援助のシステムであり、必要量の米を柔軟かつ効果的に必要な人々に届けるものです。APTERRの主要な機能は、一時的な自然災害や人為的な災害による食料不足に対応するため、米の備蓄を通じ地域の食料安全保障を強化することです。

もう1つの食料安全保障に関連したプロジェクトは、AFSIS(ASEAN食料安全保障情報システム)と呼ばれるものです。AFSISは、食料安全保障に関する情報の収集、解析、共有を通じてASEAN地域の食料安全保障に資するものです。AFSISの第1フェーズの活動では、食料安全保障情報システムの強化と関係国の能力強化を行い、第2フェーズの活動では、早期警戒情報、農産物需給見通し、相互技術協力等を行いました。

我が国は、APTERR及びAFSISの活動に主導的な役割を果たしてきました。APTERRの活動において、我が国は、2004年のパイロットプロジェクトの開始以来、およそ9百万米ドルの資金を拠出しており、これはAPTERRの支出の約8割にもなります。加えて、我が国は、緊急時における米備蓄の主要な貢献国として、APTERRによる支援数量の4割を提供しています。AFSISについては、2003年の事業開始以来、唯一のドナー国としておよそ5百万米ドルを拠出してきました。また、2011年からは専門家派遣による人的貢献も開始し、事務局の運営を支えてきました。我が国は、事務局の自立運営に向けた準備を促進する考えです。

我が国はまた、新たな協力の形態として、ASEAN地域におけるフードバリューチェーンの構築と強化の取組を始めています。官民連携によるフードバリューチェーン構築の取組は、我が国の新しい取組として、農林水産物の生産から製造・加工・流通・消費に至る各段階の付加価値を高めながらつなぎ合わせることにより、食産業と農家の双方にとって有益な関係を構築していくものです。これにより、ASEAN地域の経済成長と農家所得の増加に加えフードバリューチェーンの各段階における食品ロスの低減を通じた食料安全保障の強化に大きく貢献します。

我が国は、ASEAN のいくつかの国との間でフードバリューチェーン構築のための二国間政策対話を既に開始しています。2015年8月には我が国とベトナムの農業大臣が意見交換を行い、ベトナムにおけるフードバリューチェーン構築のための中長期ビジョンに合意するなど、既に具体的に動きはじめています。このような対話を契機として、各国におけるコールドチェーン等の食のインフラシステムの整備や、ビジネス投資環境の整備が進むことが期待されます。今後、同様の取組をASEAN各国に拡げていきたいと考えています。

さらに、我が国は、ASEANの各国において食品産業分野における人材育成やム大学と連携したフードバリューチェーン構築のための寄附講座を実施しています。我が国の食産業関連企業からの派遣された講師による実践的な講義は、各国から高い評価を頂いており、ASEAN地域におけるフードバリューチェーン構築あるいは強化に貢献することが期待されます。

今後とも、我が国は、ASEAN+3諸国と緊密に連携し、「ASEAN2025:Forging Ahead Together」に示されたビジョンの実現に向け、食料、農林業の分野におけるASEANとの協力を強化していく考えです。